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第2回 〜QOLの観点から見たがん医療・上〜

乳がんは現在アメリカ人女性の8人に1人が罹患するといわれています。日本でも最近は増えてきて, 22人に1人くらい罹患するといわれています。どのがんでもそうですが,早期で見つかれば治癒する可能性が高く,そうでないと低くなります。治癒しないとたまたま他の原因で亡くならない限り,いつかは乳がんで亡くなります。治癒不可能の乳がんの生存期間中央値 (100人同じ状態の人を集めたとき次第に少しずつ患者さまが死亡し,時が経って50人が死亡し,残りの50人が生存している状態の時期,平均生存期間と似ています)はだいたい2年くらいといわれています。これは他のがんに比較すると長いですが(膵臓がんは5ヶ月, 肺がんは8ヶ月, 大腸がんは13〜20ヶ月),若い人も罹患する可能性の高いこの病気は女性にとって恐ろしい病気の代表でもあります。また治療には乳房を切除またはもとの状態とは多少異なる状態になってしまうという,コスメティックに問題のある治療が必要になります。
注意:生存期間中央値2年とは多くの人が2年生きられるということではありません。半分の人は2年以下しか生きられないということです。なかには数週間や数日で亡くなる人もいます。ひと言に乳がんといっても,患者さまによって進行具合に差があります。

乳がんは患者数が多いため,欧米を中心に研究が盛んです。そのためいろいろなことがわかっています。例えば,どのような方が乳がんになりやすいかです。もっとも重要な危険因子は家族歴です。家系に乳がんが多発している人,かかった人が若くして罹患しているなどです。また一生のうち女性ホルモンに多めに暴露された人,産生量が多い人などです。これらの中には閉経後に女性ホルモンを長期に服用した人,生理が早く始まった人,更年期が遅くきた人,または肥満などで体内の女性ホルモン濃度が高い人などです。子供を生んだことがない人,または初めての子供が30歳を超えて出来た人。乳腺に他の疾患で放射線照射を受けた人(乳がんの治療で施行するのとは異なります)。また乳がんになるリスクの高い乳腺の疾患の既往がある人などです。以前乳がんを罹患した人はもちろん再び乳がんになる可能性は高くなります。その他食事中の脂肪の多い人や多量にお酒を飲む人も少しリスクがあがるといわれています。またAshkenaziユダヤ系の人々に比較的高頻度に発現している遺伝子(BRCA1&2)の変異をもっている人は一生のうち乳がんになる確率が80%を超えます。乳がんだけでなく卵巣がんや膵臓がんなどのリスクも上昇します。このようなリスクをいくつも同時に抱えている人には乳がんの予防が出来ないかといろいろ検診以外に試されていて,アメリカでは予防にタモキシフェンという薬を使ったり,BRCA遺伝子の変異をもっている人には予防的に手術で両側乳房を切除してしまうこともあります。アメリカではデータに基づき患者さまの希望があれば極端な治療がときどき施行されます。

すべてのがんに共通していますが,検診の普及などにより早期発見が増えてきたり,治療が進歩してきてがんになっても治癒できる患者さまが増えてきた反面,進行がんは未だに治療の効果が上がりにくく,なおかつ患者さまを苦しめます。時折 "我々はいったい何をやっているのだろうか" と疑問さえわき起こることもあります。特に抗がん剤治療は患者さまが多少生き延びたが,治療による副作用で苦しみ入院している時間の方が長かったなどといったことが実際にありました。なかには抗がん剤治療は意味がないなどという医師もいたほどでした。しかし最近は新しい薬が数多く開発され,副作用が少なくより効果があるような薬が出現してきました。これにより進行がんであっても種類によっては全身状態のよい患者さまには抗がん剤治療をしたほうがやらないより予後が改善し,緩和効果もあることがわかってきました。また以前からある抗がん剤(細胞傷害性薬)とは異なる,がん細胞に特別に作用している,あるいは発現しているタンパク質や酵素を阻害する分子標的薬(ターゲット療法)という薬が次第に出現してきています。これらのうちいくつかは既に有効性が確認されアメリカでは約10種類(日本ではそのうち5種類のみ)が承認され使用されています。これらの中には今までこれといって有効薬がなかった腎臓がんなどに60%以上の有効率があるなど画期的な薬もあります。問題は開発に多額の資金を投入しているので製薬会社も高い値段を付けねばならず,1ヶ月の使用に50〜100万円ほどかかることと,日本での認可に時間がかかることです。世界最大の乳がん学会ミーティング,「サンアントニオ乳がん学会シンポジウム」で今年,アバスチンとラパチニブという分子標的薬の有効性が発表されました。アバスチンは大腸がんと肺がんにアメリカでは使用可能ですが,乳がんにはまだ使用できないので日本での使用にはしばらく,時間がかかるでしょう。

乳がんは他のがんと同様に病気の広がりによって治療方針が異なります。小さいもので悪性度が低いものは乳房切除術または乳房温存術プラス放射線照射のみで,ホルモン受容体陽性のものはホルモン療法をその後5年間やります。腫瘍が大きいもの,リンパ腺に転移しているもの,ホルモン受容体陰性のもの,悪性度の高いものは,上記治療に加え抗がん剤の治療を加えます。もちろんこれ以上に細かい分類があり,それぞれ個別の治療を施しますが,上記が治癒可能(再発の可能性はありますが)がんの治療の根幹です。それとは反対に他臓器に遠隔転移(近辺でなく離れた場所に転移)しているものは通常治癒できません。第4期といわれ,併発する他の疾患などで亡くならない限り乳がんが原因で死亡する患者さまです。この状態の患者さまには緩和(症状の改善)と延命(可能な限り長く生きていただくこと)が治療目的になります。
罹患すると死ぬ可能性の高い病気のがんは私たちがもっとも恐れる疾患のひとつです。がんに頻発する痛みやつらさはよく耳にしますし,それにともなう恐怖も相当です。医療従事者の役割はそれらを軽減するお手伝いをすることです。しかしそれでも治すことが出来ず,患者さまの希望する結果をもたらすことができないため,世界中の研究者,医療従事者が日夜努力しています。(つづく)

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